朗読舞踏
「猫又猫七そして猫姫 ―岩木山縁起―」
「石」

舞踏 十亀脩之介
   ゴールデン鈴木
朗読 阿賀猥

2012年10月7日渋谷クロコダイル
朗読会「ワニの背中に字を並べる」にて上演





『猫又猫七そして猫姫』
  ―岩木山縁起―

T
猫姫の悲しみ 猫七はどこに
   愛しい猫七、貴方はどこに?
   帰っておくれ、帰っておくれ
   猫七猫七、私の猫七

猫又は言う 猫七など、猫七など
   忘れなされ、忘れなされ、猫七など

   稲穂は黄金に、輝き騒ぎ
   今は9月、風さわやかな9月
   天高く、空澄み渡る9月
   なぜ猫七など!

猫七の悲しみ うるわしの姫を思いて
   うるわしの姫のために
   ただ泣き濡れしこの6月、この7月、この8月
   そしてこの9月、むなしきはこの9月
   とうとう秋になりました、猫姫、猫姫

U
猫姫の笑い
   猫姫は笑う、なぜか猫姫は笑う
   ニンニンニンニンニ、ニンニンニンニンニ
   なぜ笑う? なぜ笑う?
   ハテハテ、ハテハテ、 ハテハテ、ハテハテ
   なぜ笑う? なぜ笑う?
   猫又は首を傾げる

猫又は万事構わず、吠えに吠えまくる
   俺はエリート、俺はエリート
   1日ネズミ7匹は、軽ーい捕り物
   1日ネズミ8匹も、軽ーい捕り物
   1日9匹、10匹、11匹、12匹、13匹、14匹
   1日9匹、10匹、11匹、12匹、13匹、14匹
   猫又は吠えに吠えまくる

猫七は泣く 俺らは馬鹿猫、しょうもない馬鹿猫
   俺らは馬鹿猫、しょうもない馬鹿猫
   生まれも素性も下の下の下、ゲのゲのゲ
   下の下の下、下の下の下

猫又はまたまた、吠える
   俺はエリート、俺はエリート
   1日ネズミ8匹は、軽ーい捕り物
   1日ネズミ9匹も、軽ーい捕り物
   1日9匹、10匹、11匹、12匹、13匹、14匹
   1日9匹、10匹、11匹、12匹、13匹、14匹

猫又は吠えに吠え、猫姫は笑い続ける
   ニンニンニンニンニ、ニンニンニンニンニ

V
猫山村の猫姫御殿、猫姫はネズミをお食事
   1匹、2匹、3匹、4匹、5匹
   6匹、7匹、8匹、9匹
   ブクブクブクブク 猫姫は肥える
   ブクブクブクブク 岩のように、山のように
   猫姫は肥えに肥え太り
   今は山、うるわしの猫姫山

猫町四丁目ドブ板通り
   猫七はドブネズミを追う
   飲まず、食わず、ただひたすらにドブネズミを追う
   毎日、毎日、毎日、毎日、毎日 ……
   毎日、毎日、毎日、毎日、ドブネズミを追う
   やせ衰えて、今はもう紐のように、糸のように
   ただホソホソと風に漂う

今は冬   猫姫山は、ただ吹雪
   昨日も今日もただ吹雪
   雪舞い狂い、風ひるがえる
   その風は猫七か?  その雪は、猫姫か?





『石』


わたしは道で白い石をひろった
なぜ?
なぜ白い石?

わたしはその石を抱いて
凍てつく道を通って
風の国へ帰った
風の国、誰も知らない風の国

わたしの石
風の中の私の石
わたしだけの白い石

わたしはその石を愛し
その石の中で眠り
その白い石のために泣いた

わたしは生きて行くことができなかった